Yappli(ヤプリ)のターゲット/料金プラン変遷から見るSaaSビジネスのPMFとグロース

PMFからグロースまでを調査_Yappli

toB向けSaaSプロダクトのプロダクトマーケットフィット調査する中で、

  • ターゲット(Who)
  • 提供するもの(What)
  • 価格帯(Price)

3点についてYappliの事例が参考になったので共有します。

Yappliのターゲットと単価の変化
  1. ターゲット:3年かけて中小からエンタープライズへ
  2. 料金表示:2016年から料金を非表示へ
  3. 平均単価:2016年より毎年対前年30%増
  4. ARR:サービス開始3年で2.4億円、5年で10.2億円
  5. 上場までの調達額:33.4億円
Yappliのポジショニングの変化

Yappliの1企業あたりの平均単価推移

Yappli沿革

【2013年3月】サービスリリース前

Yahoo!から資金調達したPR TIMESの記事では会社名はYappliの前身となるファストメディアです。

ファストメディアは、iPhoneなどスマートフォンの高品質なネイティブアプリをブラウザ上で誰でも簡単に作れるサービス「Yappli(ヤプリ) http://yapp.li 」を開発・運営するスマートデバイスのテクノロジー企業です。

PR TIMES

リリース前だったので価格は問い合わせベースで進めていたものと思われます。

【2013年6月】サービスリリース後

リリース後初期の価格帯は、初期費用無料キャンペーン中(税別100,000円)で月額19,800円から利用できました。

利用できるアプリはiPhoneアプリのみです。

価格帯から個人、中小企業(SMB)向けのサービスを提供していたように伺えますし、インタビューでも初期のターゲットを公開しています。

基本は個人や中小企業とかの人たちにアプリを作るのを簡単にして、ビジネスとして成長したいという思いでやっていました。ですが、結果は全然ダメでした。

最高のプロダクトをつくったが初期2年は苦労した、ヤプリが閉塞感を乗り越え波を掴むまで

スタートプランとビジネスプランの違いは下記の違いでした。

  • プッシュ通知数(スタータープランは3,000件/月、ビジネスプランは30,000件/月上限)
  • ジオプッシュ数(スタータープランは1ロケーション、ビジネスプランは10ロケーション上限)

【2013年7月】サービスリリース後のキャンペーン

2013年7月上旬は、スタータープランのキャンペーンが表示され、ビジネスプランの表示がなくなっていました。

そして、料金テーブルにカーソルを合わせると、下記のような表示があらわれました。

アプリのインストール数によって月額の料金が変わる仕組みです。

しかし、このときの料金プラン表示は翌月には変わります。

【2013年8月】月額費用減額へ

2013年8月には再度ビジネスプランの表示が復活し、Androidアプリの対応開始が追加されました。

また、ここでスタートプラン、ビジネスプランの月額料金、プッシュ通知数、ジオプッシュ数に変更がありました。

スタータープランビジネスプラン
料金19,800円/月 → 9,800円/月49,800円/月 → 29,800円/月
プッシュ通知数3,000件/月 → 1,000件/月上限30,000件/月 → 10,000件/月上限
ジオプッシュ数1ロケーション(変化なし)10 → 5ロケーション上限

【2014年8月】無料トライアルボタン追加

1年後の2014年8月時点では、料金プランの変更はありませんでした。

新しく”無料で試してみる”ボタンが追加され、利用開始の導入障壁を下げる施策が追加されていました。

【2015年3月】プッシュ通知数のみ変更

翌年2015年3月は、料金体系に変化なしと見えましたが、ビジネスプラン以降でプッシュ通知数に変更がありました。

ビジネスプラン
プッシュ通知数10,000件/月 → 5,000件/月上限

そして、2015年9月に3.3億円の資金調達が行われました。

法人向けアプリ開発プラットフォーム「Yappli」を提供するファストメディアが総額3.3億円の資金調達

PR TIMES

ここで投資家として加わったSalesforce Ventures、YJキャピタル投資人からのコメントからターゲットの変更をしていったことが後のインタビューでも伺える。

当時Salesforce Ventures浅田さん(現One Capital)にプロダクトデモしたことがあり、その時に”このプロダクトはすごいけど、これはエンタープライズ向けのプロダクトだね。スモールビジネスにはこのプロダクトは難しい”と明確に言われたことです。

最高のプロダクトをつくったが初期2年は苦労した、ヤプリが閉塞感を乗り越え波を掴むまで

【2016年5月】料金非掲載でエンタープライズへ

翌年2016年5月は、大きく変更がありました。

スタータープラン、ビジネスプランが表示から消え、エンタープライズのみ表示となりました。

この時点から

  • ターゲットの明確化(Who)
  • ターゲットのやりたいこと(What)→料金提示(How much)

が大方決まってきたのかと思われます。

成長可能性に関する説明資料_20201221

PR TIMESにはファッション業界銀行などの大手企業のアプリ化商品のリリースが増えてきました。

ゴールドウインの新業態「NEUTRALWORKS. BY GOLDWIN」アプリの配信にクラウド型アプリプラットフォーム「Yappli」を採用

PR TIMES

そして、エンタープライズ(大企業)の利用が増えたことでPMF達成が見え、グロースを行うために翌年2017年10月に6.7億円の資金調達が完了します。

アプリ運営プラットフォーム「Yappli(ヤプリ)」総額約6.7億円の資金調達を実施

PR TIMES

サービス開始から3年後の2016年、大企業や外部ソフトウェアとの連携を目的にAPI連携の強化に動き出します。

  • 2017年3月21日 銀行APIと連携
  • 2017年8月18日 マーケティングオートメーション連携
  • 2018年4月10日 YappliがKARTEと連携開始
  • 2019年1月29日 ReproとYappliが連携開始

エンタープライズにターゲットを変更したことで、必要となる機能は表に見える部分から裏の連携への移っていきます。

【2019年6月】エンタプライズ向けにカスタマイズ提案

2016年5月以降、具体的な料金を知るには資料請求必須と変化はありません。

【2020年12月】エンタプライズ向けにカスタマイズ提案

上場前月の2020年11月、初期費用+月額料金にどんな要素が含まれるのか記載はありますが、具体的な料金を知るには資料請求必須に変化はありません。

まとめ

Yappliのターゲットと単価の変化
  1. ターゲット:3年かけて中小からエンタープライズへ
  2. 料金表示:2016年から料金を非表示へ
  3. 平均単価:2016年より毎年対前年30%増

今から2013年に戻れたら、エンタープライズ向けにサービスを提供開始していればよかったと思うかもしれません。

しかし、中小向けに機能の追加・改善を行った3年間があったから、2016年にエンタープライズにターゲットを変更しても年間解約率1%以下で推移できたと考えられます。

YappliのARPU推移
Yappliの1企業あたりの平均単価推移
Yappliの機能推移

また、ターゲットを中小企業向けのまま事業を行っていた場合、2020年の約500,000円のARPUは1/10の50,000円と仮定すると4,000社の課金企業が必要になります。中小企業向けは解約率も高くなるので、エンタープライズにターゲットを変更したことで売上が立てやすくなり上場が見えたとも言えそうです。

※過去のWebページ画面キャプチャはInternet Archiveより取得

※公開情報や過去のHP情報より類推して記事を作成